日本初「健康な人ほど得する」医療保険の正体

 病気やケガの際の入院・手術などを保障する医療保険は通常、年齢と性別の違いによって保険料が決定されますが、ここに「健康」というファクターが加わると保険料はどうなるのかについて、東洋経済オンラインではこの答えに対して独自開発の「健康年齢」という指標で保険料の算出を可能にし、4月に設立された健康年齢少額短期保険の「健康年齢連動型医療保険」販売について、健康状態の違いによってきめ細かく個人のリスクに見合った保険料を提示する生命保険は日本で初めてであり、業界関係者やマスコミから大きな注目を集めていることが配信されていました。


日本初「健康な人ほど得する」医療保険の正体
( 東洋経済オンライン 7月15日(金)8時0分配信 )
 病気やケガの際の入院・手術などを保障する医療保険は、通常、年齢と性別の違いによって保険料が決定される。
 だが、ここに「健康」というファクターが加わると保険料はどうなるか――。
この答えに対して独自開発の「健康年齢」という指標で保険料の算出を可能にしたのが、4月に設立された健康年齢少額短期保険が販売している「健康年齢連動型医療保険」だ。
健康状態の違いによってきめ細かく個人のリスクに見合った保険料を提示する生命保険は日本で初めてであり、業界関係者やマスコミの大きな注目を集めている。

 6月17日の販売から2週間の売れ行きを同社に聞くと、「健康年齢を算出できる当社ウェブサイトへのアクセスは1万件を超えていますが、反響の割には保険商品の実際の販売には正直あまりつながっていません。
現状では1日数件の成約で、6月末時点ではトータルで数十件の契約獲得となっています」と大橋宏次代表取締役社長は率直に語る。
 現状の販売ルートは同社のウェブサイトを通じてのインターネット通販のみ。
一般の保険会社と比べて規模も認知度も小さい少額短期保険という事業形態も、スロースタートとなっている要因と言えるかもしれない。
 ただ、複数の保険商品を取り扱う乗合の保険代理店からは「商品に興味がある。ぜひ取り扱わせていただきたい」という声が殺到していると大橋社長。
商品や保障内容が多様化し群雄割拠する医療保険の世界で、プロの保険代理店が指名する同社の保険とはいったいどのような商品なのか。


健康年齢という指標を独自開発
 健康年齢連動型医療保険の最大の特徴は、「健康年齢」という実際の年齢とは異なる指標に基づいて保険料が決定されることだ。
「平均寿命」に対して、"健康という自覚を持っている期間"である「健康寿命」という年齢指標は、日本の健康推進戦略である「健康日本21」などでも用いられているが、現時点の健康状態を数値で示した健康年齢という概念は、同社が開発した独自指標だ。
 健康年齢は、実年齢と性別に加えて、①BMI(ボディ・マス・インデックス)、②収縮期血圧(最高血圧)、③拡張期血圧(最低血圧)、④中性脂肪、⑤HDLコレステロール、⑥LDLコレステロール、⑦GOT、⑧GPT、⑨γ-GTP、⑩HbA1c(もしくは空腹時血糖)、⑪尿糖、⑫尿蛋白、の健康診断で使われる12項目の健診データに基づいて算出される。検診の数値が良ければそれだけ健康年齢は低くなり、悪ければ健康年齢が高く出るというわけだ。
 画期的なのは、健康年齢の算出に加えて、その年齢ごとに病気になるリスク、入院するリスクなどをはじき出し、個人の健康状態に見合った保険料を算出してしまったことだ。
従来、性別・年齢別には病気の発生確率や入院日数、手術の有無などの確率は、厚生労働省の患者調査や保険各社の顧客データベースなどからはじき出すことは可能だったが、健診のデータに基づいて個別の保険料を算出することは不可能だった。

 だが、同社はノーリツ鋼機グループの子会社で、兄弟会社に約300万件に及ぶ医療データベースを有する日本医療データセンター(JMDC)を持つ。
 JMDCは10年以上前から、健保組合から預かった健康診断の結果とレセプト(診療報酬明細書)をデータベース化する仕事を請け負っており、膨大な医療データの蓄積があった。
 「保険会社では把握しにくい退院後の通院日数などのデータ、抗がん剤治療の期間やかかった医療費のデータなど、膨大なビッグデータがあるからこそ、加入時の健康状態に応じたリスク分析が可能になり、保険の商品化が実現できた」と大橋社長は言う。

 保障内容はいたってシンプルだ。がん・脳卒中・心筋梗塞・高血圧・糖尿病の「5大生活習慣病」で入院した場合に給付金が80万円受け取れる(日帰り入院も可)。
特約や付帯サービスなど一切ない。加入の際の引受基準もいたってシンプル。
 「過去1年以内に上記の5大生活習慣病の治療で入院したことがあるか、または入院を勧められたことがあるか」の2つの質問(告知)にどちらも「いいえ」であれば加入できる。
 つまり、持病や既往症があり日常的に薬を飲んでいる人でも、過去に大病を患ったことがある人でも、この2つに該当しなければ原則的に引き受けOKとなる。


実年齢マイナス11歳! という結果に驚く
 保険料が個人の健康状態によって異なるのは前述の通り。
ちなみに現在50歳の記者が半年前に実施した健康診断の12項目の数値をもとに、同社のウェブサイトで健康年齢を試算したところ、なんと39歳(実年齢マイナス11歳)という結果が出た。
 決して健康的とは言えない生活の中でも"健康オタク"を自認する記者が、今この保険に加入した場合の月額保険料は1521円と算出された。
 もし、健康年齢が実年齢と同じ50歳と出た場合の保険料は実に4216円と3倍近くの金額になる。
実年齢と健康年齢との保険料の差はかなりの衝撃だ。


健康年齢と月額保険料の例
健康年令 20歳  30歳  40歳  50歳
 男 性 273円  679円 1667円 4216円
 女 性 898円 1123円 1597円 2483円


 ほかの生命保険会社が販売する医療保険では類似の商品はないため、比較は困難だが、たとえば、特定疾病を手厚く保障するという文脈から、既存のがん保険との比較なら可能ではないか。
 多くのがん保険には、がんになった時点で一括して給付金を受け取れる「診断給付金」という保障があり、今やがん保険の"代名詞"と言えるほど浸透している。
 がんの治療にかかるおカネには個人差はあるが、自己負担額の平均で100万円前後というデータがあり、診断給付金を50万~100万円に設定している生命保険会社が多い。

 健康年齢連動型医療保険は、がんなど特定の疾病で入院した場合に一時金として80万円が受け取れる保険だ。
この金額はがん保険の診断給付金とほぼ遜色がない。
細かい保障内容にはむろん差があるが、実際に保険料を比較してみるとその差は歴然としている。
 たとえば、がん保険の中でも比較的保険料が安いと定評があるアクサダイレクト生命の「アクサダイレクトのがん終身」をみると、50歳男性の月額保険料は2680円だ。
 この保険料で、がん診断給付金100万円と入院給付金日額(日数無制限)1万円の保障が付く。一方、健康年齢39歳で算出した同保険の月額保険料は前述の通り1521円だ。
 ただし、同保険は1年更新の商品のため、毎年保険料が変動する。
仮に今の良好な健康状態を今後10年間維持するとして、アクサダイレクトのがん保険と、10年間で支払う保険料総額を比べてみよう。

 がん保険の方は、月額2680円の保険料は一生涯変わらないので、10年間に支払うトータルの保険料は32万1600円となる。
 一方、同社の医療保険は仮に、健康年齢が1歳刻みで上がっていくとして、加入時の39歳では月額1521円、40歳では月額1667円、41歳では1813円……10年後の48歳(実年齢は59歳)では月額3545円となり、10年間トータルでは28万8636円となる。
がん保険との10年間で支払う保険料の差は3万円にも上る。


もちろんメリットばかりではない
 しかも、同社の医療保険はがんを含めて5大生活習慣病による入院が保障の対象だ。
入院給付金や手術給付金、各種特約、セカンドオピニオンサービスなど付帯サービスは皆無だが、がん保険の代わりとしても十分に競争力のある保険料水準となっている。
 加えて、持病や既往症があって、通常の医療保険の引き受けを断られた人でも加入し易い「引き受け基準緩和型」の商品となっていることも、大きな特徴の一つ。
 高血圧や糖尿病で服薬をしていても、「過去1年以内に5大生活習慣病で入院をしていない、入院を勧められていない」という条件をクリアすれば加入できる。
 がんに罹患(りかん)し、抗がん剤治療を続けている人でもこの条件を満たしていればむろん申し込むことが可能だ。
 ただしメリットばかりではない。まず前述の通り、1年更新の保険のため、毎年算出した健康年齢に基づいて保険料が変動すること。
健康診断の数値が良くなければ、保険料が大きくハネ上がる要素は当然ある。
 さらに、5大生活習慣病で入院し、80万円の給付金を受け取ったあとは、保障が消滅してしまう。
そこからさらに1年間待って、告知項目に該当しなければ再び保険に加入することはできるが、その場合でも1年間の"無保険期間"が出てきてしまう。

 一般的な医療保険では支払事由に該当したからと言って、保障は消滅しない。
終身タイプの保険であれば、保険料も加入時の金額から一生涯変わらない。
 したがって、同社の医療保険に関しては、「5大生活習慣病の入院保障を1年単位で買う」という考え方をするのがベストかもしれない。
 これまで生命保険商品の中には、年齢・性別以外に喫煙の有無やBMIの値、ゴールド免許の有無などに基づいて、保険料を割り引く死亡保険(定期保険)などは存在した。
だが、12項目以上にも及ぶ客観的な指標をもとに健康年齢を算出し、個々の疾病リスクをより精緻に予測して保険料を算出する本格的な医療保険は日本にはなかった。
 「健康であればあるほど保険料が安くなる」ということの本質的なメリットは、「健康になろう」「健康でいよう」という意欲が高まる可能性があることだ。
健康を維持するために、運動をしたり、食生活に気を付けたりすることで疾病リスクを減らすことができれば、これはすなわち医療費など増加する社会保障費の削減にもつながる。
保険会社にとっても健康な人が増えれば、支払い給付金の削減ができ経営上のメリットも小さくない。


"病気に備える"から"健康になる"へ
 海外では、南アフリカ共和国のディスカバリー社のように、契約者向けに健康改善プログラム(Vitality Program=バイタリティ・プログラム)を提供し、運動や食生活の改善、検診など健康につながる行動をポイント化して、保険料の割引やキャッシュバックを実現する保険会社も出てきている。
 同プログラムでは、保険料のディスカウント以外にも、映画のチケット、スターバックスの無料券、ジムの利用料金割引、航空券・ホテル宿泊費の割引などさまざまなインセンティブを付与することで魅力を高め、契約者数の増加とプログラム参加者の健康増進に成果を上げているという。
 ディスカバリーは欧米やアジア諸国にも事業展開しており、同社の健康改善プログラムは世界に広がりつつある。
 日本でも同社の動きとは別にして、健康につながる各種行動によって将来病気になるリスクがどう変化するなど、ビッグデータを分析・解析する試みが一部の生命保険会社で始まっている。
 今回、健康年齢少額短期保険が投じた「健康年齢を使った医療保険」という一石が保険業界に波紋を広げ、リスク細分型の自動車保険が誕生したときのように、健康状態や健康行動など個々のリスクをきめ細かく分析して保険料に反映させる生命保険・医療保険の開発が本格化することは必至だ。
 もっと言えば、「病気に備えるために医療保険に加入する」ではなく、「健康になるために医療保険に加入する」というように、そもそもの保険の概念を変えてしまうほどのパラダイムシフトが保険業界に起こる可能性がある。

高見 和也
最終更新:7月15日(金)8時0分

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