ソニー損保の自動車保険に優良ドライバーが年々溜まっていく仕組み(下)

 ソニー損保ではテレマティクス保険では説明が難しい保険のためにウェブ専用とし、消費者からのプルを中心とすることに決め、コールセンターはあくまでも販売のサポートと位置づけたとのことでした。
 ソニー損保は、ウェブの動画を使って保険の契約からキャッシュバックまでの流れを説明し、それを理解した消費者が契約まで進めるようにすることで通常の自動車保険に割高感を感じている若年の優良ドライバーをターゲットとして発売したのですが、実際の加入者である若者が獲得できたものの通常の自動車保険と同様にボリュームゾーンの中年層が多数となってしまったようです。
 そして、やさしい運転キャッシュバックのリピートに関しては点数が高く、キャッシュバックを受けた人のリピート率が高いのに比べてキャッシュバックがなかった人のリピート率は低い傾向があることから年を経るに連れてソニー損保には優良ドライバーだけが溜まっていく仕組みであると言えることが掲載されていました。


ソニー損保の自動車保険に優良ドライバーが年々溜まっていく仕組み(下)
( ダイヤモンド・オンライン 【第2回】 6月20日(月) )
ソニー損保の保険に優良ドライバーが溜まる仕組み
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 テレマティクス保険は説明が難しい保険なので、ソニー損保ではウェブ専用とし、消費者からのプルを中心とすることに決めた。
コールセンターは、あくまでも販売のサポートと位置づけた。
 ウェブでは動画を使って、当保険の契約からキャッシュバックまでの流れを説明し、それを理解してくれた消費者が契約まで進んでくれる。
 通常の自動車保険に割高感を感じる若年の優良ドライバーをターゲットとして発売したが、実際の加入者は若者も獲得できているものの、通常の自動車保険と同様、ボリュームゾーンの中年層が多数となっている。
 やさしい運転キャッシュバックのリピートに関しては、点数が高くキャッシュバックを受けた人のリピート率が高く、それに比べてキャッシュバックがなかった人のリピート率は低い傾向がある。
すなわち年を経るに連れ、ソニー損保には優良ドライバーだけが溜まっていく仕組みと言える。
 テレマティクス保険の宿命としては、市場規模には限界があり、全自動車保険の中でシェアを限りなく大きくすることはできない。
 それは、全ドライバーに占める優良ドライバー比率は大体決まっており、シェア10%程度なら優良ドライバーだけが加入することはあり得るが、シェア30%となると優良でないドライバーまでも獲得しなくてはならないからだ。
彼らは保険料が割高になり、この保険にはもともと加入しないため、それは現実的ではない。
保険は認可事業なので、認可申請のための事前のデータ蓄積が必要である。
 また膨大なデータを採るだけでなく、それを保険料にどう反映させたらよいか、というところにノウハウが必要である。
 そのため追随企業はあるが、ソニー損保は時間的に先行している優位性を活かし、さらに次の展開に進むことも可能である。
なお現在発売しているテレマティクス保険に関して、ソニー損保は特許を申請中である。


競合大手がなかなか参入できないテレマティクス保険の特徴
 大手損保企業にとっては、テレマティクス保険はニーズがあるのはわかるが、すぐには追随したくない保険である。そ
れには以下のような理由が挙げられる。

 第1に、優良ドライバーの母集団は、一般ドライバーと比べて少ない。大手企業が小さな市場に入っていくと、固定費を大幅に削減しない限り、利益率は低下していく。

 第2に、現行の保険料体系は用途車種、年齢などの顧客属性と等級によって決まっており、客観的数値がすぐにわかり、募集コストも少なくて済む。
テレマティクス保険に関しては、ターゲットとなる母集団が小さくなるだけでなく、加入前に運転特性の判定という新たなコストをかけなくてはならない。

 第3に、大手損保にとっては、優良ドライバーもそうでないドライバーも、日本全国平均と同じ比率で加入している状態が望ましい。
 自動車保険の料率は、過去の膨大なデータから、損害保険料率算出機構が基準値を示すが、これは全国の平均値に基いて決めている。
これに各社の特殊性を加味して、保険料を決めている。

 しかし加入者が偏ってしまうようなテレマティクス保険の場合、料率を各社で独自に算定しなくてはならなくなる。
どのような料率に決めれば良いかについては、過去のデータ、競合他社の動向、消費者の納得性などを勘案しなくてはならず、従来型の自動車保険に比べて、かなり面倒な作業になる。
 このような難しさがあるが、競合他社は車種を限定したり、法人限定にするなどして、テレマティクス保険に手を出し始めている。
たとえば損保ジャパン日本興亜は、日産の「リーフ」限定で2013年に走行情報反映型の自動車保険「ドラログ」を発売した。
また、あいおいニッセイ同和損害保険は2015年、大株主であるトヨタの「Tコネクト」が利用できるカーナビを搭載した車用に「つながる自動車保険」を発売した。

 また法人向けには、三井住友海上がスマホを利用して安全度を診断し、最も高い評価を受けた企業は次回契約の保険料が最大6%安く保険を、損保ジャパン日本興亜は、ドライブレコーダーを搭載し、全車両にレコーダーを搭載した企業の保険料を5%安くする保険を発売をしている。
 テレマティクス保険は世界的な流れであり、大手損保も参入したり、研究し始めている。
しかし、リスクを正しく反映し、顧客にとって納得感のある商品設計にするためには、今までの保険にはないノウハウが必要であり、簡単には同質化できない商品とも言える。


対顧客、対競合、対社会の面で優れているビジネスモデル
ソニー損保のテレマティクス保険のビジネスモデルは、対顧客の面、対競合の面、対社会の面で優れたモデルと言える。具体的に優れているポイントを6つ挙げてみよう。
 第1は、ソニーの金融会社共通の合理性、公平性という目標に、テレマティクス保険はまさにフィットしたものである。
業界の先陣を切って同保険を推進する姿勢は、企業理念の実現という意味でも、顧客志向の徹底という意味でも、ソニーらしさを具現化している。

第2は、運転特性や様々な情報を蓄積することによって、将来は膨大なデータを活用できる可能性があるが、これはソニー本体の情報・通信、デバイス技術とシナジー効果が期待できる(もちろんデータには走行場所等の個人情報が含まれるため、プライバシーの問題を解決することが必要であるが)。
 第3は、大手企業がすぐには追随しにくく、先行者利益を上げられる可能性がある。大手企業が追随しにくい理由は主に2つある。


(i)市場規模が小さい
この市場が、大手企業が相手にするほど大きくないということである。それ故に固定費の高い大手損保が参入すると、利益率の低下を招く可能性がある。
(ii)規模の経済性が効かなくなる
 大手の損保会社にとっては、運転技術という新しい保険料決定要因を加えず、年齢などの顧客属性と等級を中心とした従来のやり方の方が、募集コストが安く、規模の経済性をそのまま享受することができる。 

第4は、優良顧客がリテンションされる仕組みである。
 同保険は毎年優良顧客が累積的にソニー損保に蓄積されていく仕組みであり、それによってソニー損保の支払い保険金は減り、収益は増えていく。
一方で、仮に全国の優良ドライバーがすべてソニー損保に乗り換えたとすると、他社の加入者は“不良ドライバー”だけ残ることになり、保険料収入の低下以上に、事故による保険金の支払いは増加し、経営を圧迫することになる。
その結果、大手は保険料を上げざるを得ないという事態も予想される。


第5は、「やさしい運転キャッシュバック」が普及するに連れ、ドライバーが急加速・急減速を避けるようになり、これによって、交通事故を減らす効果がある。
 ちなみに英国では、17~21歳のテレマティクス保険加入者の事故率が、75%も低下したという事例も報告もされている。
 そして第6に、やさしい運転は事故が減るだけでなく、急発進・急加速などが減ることにより、消費者にとっては燃費の向上、社会全体にとっては環境負荷の低減につながるという効用もある。

短期、中期、長期で見たテレマティクス保険の将来は?
 では、ソニー損保のような企業が手がけるテレマティクス保険は今後、どうなるのか。
短期・中期・長期の視点から考えてみよう。
現在ソニー損保はドライブカウンタに通信機能は持たせていないが、短期的には専用機器はスマホやカーナビに代替される可能性もある。機器の追加コストが発生しないという意味で、現時点での本命はスマホである。プログレッシブ社でも、スマホを用いた実験を終えている。
 スマホが計測機器のデファクト・スタンダードとなれば、デバイスに関わる投資が要らなくなることから、それを機に参入企業は増える可能性も高い。
中期的にはビッグデータが安いコストでとれるようになり、それと事故などとの関係が明らかになるにつれ、保険料を決める要因が年齢などの顧客属性や等級だけでよいかという議論が高まってこよう。
 さらに長期的には、自動車の自動運転が普及した場合、自動車保険のあり方自体が根本的に問い直される可能性もある。
 やさしい運転キャッシュバックは、「運転技能に差があるから成功するモデル」であり、自動運転などでドライバーの運転技能が関係なくなってくると、その特長が生きなくなってくる。
将来、自動運転が当り前になった場合には、そもそも自動車保険というものがどんな形で存在し続けるかが、問われてくるであろう。


今後はスマホが主流に?技術予測に落とし穴はないか
短期的に測定デバイスはスマホに代替され、それを機に新規参入が増えると言われているが、テレマティクス保険のデバイスとして、本当にスマホが主流になるであろうか。
確かに、スマホは多くの人が所有しており、新デバイスへの投資は要らない。
 しかし、そもそもスマホはドライバーが車を降りるときには一緒に持って行くものだ。
車に乗る度に所定の場に設置したり、車のキー以外のものを乗り降りの都度、いちいち設定し直したりするものだろうか。
万一ダッシュボードの上にスマホを置き忘れたら、夏季には熱でスマホが故障する危険もある。
 以前、複数の機能を1つの機器で実現しようという目的で、ファミコン内臓テレビや電話付きミニコンポなどが発売された。しかし、使用状況における機能のバッティングなどがあり、これらの商品は早々に姿を消した。
 スマホは、デジカメ、時計、電子手帳、電卓などの機能を取り込んで成長してきたが、それはユーザーから見て、お互いの使い勝手を損なわないものであったからである。
果たして自動車に乗る際に、キーやカーナビに加え、新たな操作が増えることが、どこまで受け入れられるであろうか。


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